| 旧暦の4月、この時期の伝統行事に「山留(ヤマドゥミ)海留(ウミドゥミ)」があるのをごぞんじでしょうか。山留とは、穀物の成長を願って行なわれる禁忌(きんき)のことで、野良仕事や山仕事をやってはいけない期間が決められていました。また、海での漁を禁止し、もしそれを破れば不漁になると信じられてきました。
国頭村史をひらくとそこに「3月から5月にかけては、稲の成熟期。(中略) 山留・海留は水害や風害をふせぐのを目的にしていた。海留の期間は短いが、その間に女子が海に入ると、海神の怒りにふれて、波風がおこり、稲作に大きな害があるとされていた」という記述をみることができるように、やんばるにおいても山留・海留は大切にされてきたのです。
沖縄では1年の約1/3が祭事や行事の期間にあたり、かつての権力者は沖縄の農民にもっと働いてもらうために、それらの一部を禁じたこともあったそうです。それでも農民たちは、祭事や行事をひそかに続けたと言われています。国頭村で農業を営む金城さんは「今では山留といえども完全に山仕事を止めるわけにはいきません。でも気にしていますよ。決してやりすぎないようにね。山留・海留は、やんばるの自然の豊かさや、強さを守ってきたのですから」
山留・海留のような行事を「物忌み(ものいみ)」といい、物忌みには「禁止、留める、こもる、処分する」などの意味があります。
「たんなる古い風習のように思えるこの行事には、じつは自然保護や乱獲を防ぐ意味もあったのではないかと私は思っているんです。また旧暦4月は梅雨入りでもあり、海山の危険が増す季節。山留・海留には、いにしえの人々の自然災害に備える知恵が盛り込まれているのかもしれません」
自然と共生するやんばる人ならでは感覚の鋭さをかいまみた気持ちになりました。
「自然災害に備える」ということでは、やんばるの道路にも知恵が盛り込まれています。つねに海の塩分にさらされているうえに、高温多湿な海洋性亜熱帯気候という、アスファルトにとって過酷な条件のもとで、いつもよいコンディションを保つ工夫が必要です。また複雑な地形のためにトンネルや橋が多くあり、ひとたび台風や風雨にさらされれば、交通遮断の可能性も高まります。先頃には宮古島で地震もありました。あらゆる状況に備えて、日頃から道路に備わるものすべてを、最善の状態にしておかなければなりません。
人々の暮らしのためであることはいうまでもありませんが、豊かな自然を求めて年々増えつづける観光客が安心してやんばるを訪れるためにも、日頃からの道路へのきめ細やかなケアは、現代のやんばるにとって不可欠なもの。人と自然のどちらをも守ることが求められているのです。
やんばるで長きにわたって受け継がれてきた山留・海留の行事。そこに防災への備えという意識があるとすれば、それは自然の豊かさと激しさの両面を知っているからにほかなりません。
「古代の人々は、不思議な説明のつかない出来事を、神の行ない、と考えていました。科学の進んだ今はかなり説明ができますが、それでも災害はやってくる。だからこそ、しきたりや知恵は無視できないのです」と金城さん。梅雨がひかえているこの季節、静かに心に響くものがありました。
|