| 3月、やんばるの森はいちめんの新緑に染まります。イタジイをはじめ、タブノキ、コバンモチ、カクレミノ、イスノキなどの木々の樹環は、目にも痛いほどの鮮やかさ。まるで山全体が光り輝いているかのようです。野鳥たちの鳴き声は先月よりも力づよく響き、ひと雨が過ぎるたびに森は活気を増していきます。「うりずん」という季語ともに訪れる初夏。やんばるの長い夏は、こうしてはじまりを告げるのです。
東村は南北26kmの細長い村で、沖縄県第5位の面積をもち、そのほとんどがやんばるの広大な森のなか。3月の東村といえば、なんと言っても有名なのは「つつじ祭り」ですが、最近ではもうひとつ人々の目を東村に向けさせているものがあります。
エコツーリズムという言葉を聞いたことがありますか。エコツーリズムをひと言でいえば「地域固有の自然・歴史・文化などを活かした観光」ということになります。東村は沖縄本島ではもっとも早く、平成11年にエコツーリズムへの取り組みをスタートしました。東村にひろがるやんばるの森には、国の天然記念物に指定された沖縄本島最大のマングローブ林、20世紀の大発見と言われるノグチゲラ、そしてヤンバルクイナ、ヤンバルテナガコガネなど天然記念物指定の生き物が、数多く生息しています。こうした貴重な自然を、地域固有の資産として保護しながら、観光業として経済に結びつける可能性を、東村はエコツーリズムに見いだしました。カヌーやトレッキングで変化に富む自然をゆったりと体験できるように配慮された東村のエコツーリズムは、年を追うごとに評判を呼び、東村の知名度を一躍全国区規模に押し上げたのです。
ところで、なぜ東村はエコツーリズムをはじめたのでしょうか。その理由に村の構造的危機がありました。
「きっかけは、パイナップルの輸入自由化なんですね」と語るのは東村役場企画観光課の小沢英文さん。
「基幹産業が農業である東村にとって、パイナップルは出荷量全国一を誇る特産品でした。それが平成2年のパイナップルの輸入自由化によって、外国産との価格競争に破れてしまった。パイナップル農家がうけたダメージはあまりにも大きく、村人の多くが将来を危ぶみました」。しかし大変な危機として受け止めただけに、対応は迅速で徹底的に真剣だったのです。パイナップルに代わる新たな産業や村おこしについての会合が、連日連夜のように行われました。「その結果、村の誇る慶差次川のマングローブ等の素晴らしい自然を住民自らがガイドし、自然保護の大切さについて観光客に学んでもらうエコツーリズムを導入すべきとの意見が、会合に参加したメンバーの賛同や共感を得るようになりました。そして平成10年頃には、観光客を受け入れるための施設整備や、住民代表がエコツーリズム先進国であるオーストラリア視察などの下準備に取りかかるようになりました」
それからわずか7年後の平成17年度、エコツーリズムを目的に東村を訪れた人々は、修学旅行生だけでも250校・12,800人を数えたのです。すばらしい快挙。しかし、小沢さんは「一見、順調そうな東村のエコツーリズムにも悩ましい問題があります」と心配しています。
「あまりにも有名になりすぎたため、お客様が増えすぎて環境破壊が進みつつあるのです。これでは本来のエコツーリズムの精神に反してしまい、自然のバランスを崩しかねません」。
やんばるの森をフィールドにネイチャーガイド・写真家として活躍される国頭村在住の久高将和さんも、そんな沖縄のエコツーリズムの現状に対して危機感を募らせる一人です。「エコツーリズムと称して環境を破壊し、地元を通り過ぎていく旅行業者も多い。よその人は破壊して別のフィールドに移ればいいが、われわれ住民はそうはいかないのです」と話します。年々、人間の行動によって失われていく自然を見つめながら、「本来のエコツーリズムとは何か」を仲間と研究し、国頭ツーリズム協会顧問を務めています。
2時間の旅を終えて「慶佐次川マングローブ林カヌー探検ツアー」から帰ってきたばかりの大学生に、感想をたずねてみました。「自然そのもののなかにいる、という気持ちになりました。そして将来、こうした仕事を自分もやってみたいと思います。ガイドさんのお話を聞いて、自然や動植物を守るために、なにが必要か、を考えさせられましたよ」。その感想を聞きながら「キミ、明日からここで働いてみるかね」と返す東村出身のガイドさん。うりずんのやんばるで、エコツーリズムの「今」に出会いました。
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